自尊心をくすぐるもの、自制心を崩すもの

この本が、このブログのネタになるとは、思ってもみませんでした。

ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる (文春文庫)
マイケル ルイス
文藝春秋 (2014-09-02)
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ほとんど気晴らしために手に取った前著「世紀の空売り」の読み応えがあったので、その続編にあたる本書を読んでみることにしました。主題はリーマンショックに続く欧州金融危機。

「世紀の空売り」は、どことなく語り口にエンターテイメント的な感じがする(だから映画にもなったのでしょう)のに対し、今作はかなり落ち着いた、というより若干沈鬱な印象を受けました。

私は、欧州金融危機とは、お金のことに真面目とはいえない、ギリシャを始めとする南欧諸国を、他の国がいやいやながら助けている、という構図だと思っていたのですが、その認識は大間違いである、と著者は指摘します。アイスランド、アイルランド、ギリシャ、そしてドイツ。それぞれの国、あるいは国民性にこの危機を招いた要素があり、それが国によって明らかに異なることを映し出します。

この本を読んで私が関心を持ったのは、国によって大きく異なる「自尊心」と「自制心」の持ち方でした。

自尊心は人間であれば必ずといってもいいほど持っていると思います。(Aならかなわないけど)Bなら誰にも負けない、という心。私は「スペシャル」である、という心。こういう心を持つこと自体は問題なく、ある意味必要でさえいえるのですが、(私を含め)大半の人がよくわからない金融の話で自尊心がくすぐられると、大変なことが起きる。まして、もともと人間が本能的に溜め込もうとする「お金」の話ですから、問題は複雑です。

お金のことで自制心を失う問題は、単純に「うまい話に気をつけろ」という問題だけではないような気がします。一つにはバブル当時のように、周囲のみんなが「うまい話」を信じた状態で自制心を保てるか?ということ。もう一つには、バブルでなくても、ネットには自尊心をくすぐり自制心を失わせる情報がいくらでもある、ということ。だからといって、情報を遮断すればいいという話ではなく、事実上不可能です。では、どうすればいいのか?

「自己規制を拒むのであれば、我々を規制してくれるのは、環境と、環境が我々の権利を剥奪していくその過程だけです」(略)言い換えれば、意味のある変化を起こすには、必要量の苦痛を我々に与えてくれる環境が欠かせないということになる。

本書で登場するある学者の指摘です。この指摘をリーマンショックを重ねあわせた時、自制心を失った先にあるものは、相当にきついハードランディングを連想してしまいます。

一方で、多くのイノベージョンはある意味自己規制を突き抜けた先にこそある。リーマンショックはCDSというとんでもない金融商品のイノベージョンによって生まれたわけですが、逆に人々の幸福に資するイノベージョンも同様です。

私たちがみんなすごいイノベージョンを発明する必要がないにしても、「必要量の苦痛」の経て得られる変化、そしていい意味での自尊心の進歩は、自制心の適度なコントロールの先にあるのかもしれません。

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