謎のプログラム”ADHD.exe”への対処?(3)ほんのささいなきっかけで

前回の続きです。

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学
センディル・ ムッライナタン エルダー・ シャフィール
早川書房
売り上げランキング: 14,665

この手の本らしく、実際のエピソード満載なのですが、その第1章のエピソード1で登場するのが「料理の鉄人」なので、好感度が上がりました。

さて、「欠乏.exe」がバックグラウンドで走り出すとどうなるか。著者は「集中」と「トンネリング」が起こる、と言います。
「集中」は、ポジティブな側面。このたとえに「料理の鉄人」(のアメリカ版)が出てきます。詳しくは書きませんが、なんとなく想像(創造?)がつくかもしれません。

で、ネガティブな側面が「トンネリング」。大事なことまでシャットアウトしてしまい、時に命を落とすことになる。
本文では実際に命を落とす例が「料理の鉄人」のすぐ後に出てきますが、ここでは別の例を。

私の妻が食事を作ると子供に席をつくように促しますが、子供は特に遊んでいる最中だとすぐにつくとは限りません。まぁ、よくあることです。
一方、私が食事を作ると、もちろん子供はすぐに食べるとは限りませんが、妻も同様なんです。妻にとっては食べることより友人へのラインの返信や、明日の天気予報のチェックや、目に付いた家事の対応が優先します。なんで食べないの?と聞くと、今やらないといつできる時間が取れるかわからない、と言うのです。さらにはその後、もし子供たちがまだ遊んでいたら「なんでまだ食べないの?」と怒りだします。

ここに3つのポイントがあります。

まず一つは、「いつ時間が取れるかわからない」と言っていること。
妻に取って最大の心配要因はやはり時間なのかもしれませんが、「処理能力」が不足すると直ちに時間に影響します。

二つ目は、妻はこれらの行動を無意識にやっている、ということ。
「なんで食べないの?と聞くと」と書きましたが、聞かないと妻は我に返ることはありません。「処理能力」は無意識のレベルに影響します。妻が子供に怒っているのはストレスからではなく、無意識のレベルに影響した処理能力の低下によるものです。

三つ目は、妻が食べない理由がほんのささいなことである、ということ。
冷静に考えれば、ラインの返信や明日の天気予報のチェックを2、30分後でやっても結果に大きな影響を与えるとは思えないのですが、とにかく「処理能力」の低下はほんのささいなことから発生します。

ここでは妻を例に挙げましたが(申し訳ない)、実は誰にでも起こりうる。
大学で模範生だった人がほんの些細なきっかけで借金地獄に堕ちてしまった話が本文に出てきますが、それはこの人が「怠惰だから」なのではない、と著者はいいます。

「欠乏.exe」が走りだすきっかけは誰でも、どこにでもあるのだ、というのは大きな気づきでした。いわんや、ADHDをや。ささいなきっかけに反応しやすいADHDの人が、簡単に処理能力が低下するのは当然のことです。さぁ、どうしたものか?

(この項続きます)

謎のプログラム”ADHD.exe”への対処?(2)一応の結論

前回の続きです。

いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房)
早川書房 (2015-07-31)
売り上げランキング: 3,305

まず、はじめにおことわりしておきます。この本にはADHDや不安神経症の言及は一切ありません(子育てについては少しあります)。
ただ、私の妻のような軽度のADHDについてはなんらかの仕組みを導入することで、妻自身や家族が快適に過ごすことができるのではないかと思っています。

もちろん重度の方は仕組みだけで何とかなるものではなく、投薬なり専門家によるカウンセリングが必要です。今から申し上げることはそこまではカバーしていません。また私は医者ではないので医学的に証明されているわけでもありません。
とはいえ、重度の方がある程度おられるなら、軽度の方はその数倍はいるはずで、そんな声なき声?にちょっとはお役に立てれば、と思います。

この本を読んで、いろいろ考えた一応の結論は、前回の「欠乏.exe」のたとえを使えば

・誰でも、些細なきっかけで、簡単に「欠乏.exe」は発生しうる。しかも場合によっては簡単に停止できず、無限ループに陥りうる。

・「ADHD.exe」は 残念ながら普通の人よりも「欠乏.exe」を発生しやすくする、あるいは停止しにくくするプログラムである。( 「欠乏.exe」と並行して走るプログラムではない)

・つまり、「欠乏.exe」発生および停止のメカニズムなり仕組みを考えて対応を取れば、軽度のADHDにも対応できるはず。

私は今までADHDはストレスの発生に直結する要因だと思っていました。たしかにストレスも発生しやすいのですが、ADHDが起こると直ちに「処理能力」の低下が起きて、「欠乏.exe」につながり、それがストレスも引き起こす。そこが今までにない気づきでした。

そして、子育て。これには1項目をさいています。

良い親でいることには、総じて処理能力が求められる。難しい決断と犠牲が求められる。
(略)
これはどんなに資源が豊かな人にとってもけっして容易ではない。処理能力が低下しているときには難しさが倍になる。
(略)
良い親であることには多くのことが求められる。しかし何よりも心の余裕が必要だ。

心の余裕。

最新の心理経済学でも必要なのはこれなんですね。この項目を読んで、私はこの本に対する親密度がさらに上がりました。

(この項続きます)

謎のプログラム”ADHD.exe”への対処?(1)

お久しぶりです。
実は、この本を読んでいました。
これからの私の、いやうちの家族の生活習慣を根本から見直す必要があるかも、という衝撃を受けました。

いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房)
早川書房 (2015-07-31)
売り上げランキング: 3,305

きっかけは、この記事。

【書評】いつも「時間がない」あなたに(センディル・ムッライナタン&エルダー・シャフィール)

原題は”Scarcity”。「欠乏」という意味。
そしてこの本の最大のキーワードは、「処理能力」。

簡単に言おう。彼らは、欠乏に直面しているだけで、処理能力が制限されてしまう。
パソコンでたとえれば、普通に生活している人がアプリケーションを立ち上げているのに対して、はまり込んでいる人たちのパソコンでは「欠乏.exe」がバックグランドで走っている。当然、CPUにはその分の負荷がかかる。ごく簡単な課題であるならば、影響は軽微だ。しかし、少しややこしい問題となると、負荷分の差は如実に表れてくる。

すごくよくわかる例えでした。妻も同じような状態なんです。軽度のADHDの妻が。

つまり、妻の頭の中では常に軽度の”ADHD.exe”(あるいは”不安神経症.exe”)がバックグラウンドで走っていて、場合によってはちょっと子供がぐずったりしただけで、もろもろの処理が崩壊して簡単に体調が崩れます。もっとも、元のメモリの大きさがその時の状況ですごく変わる、というのはありますが。
もう一つ例えを言うと、実際の妻のパソコンも似たような状態なんです。ブラウザーはいつも20以上のタブが開いており、さらには画像を何個も開いていたりするので、常に遅いのです(まぁ、マシン自体が数年落ち、というのもありますが)。

で、問題は、それに対して何の対処もしない、ということです。もし、私のパソコンが遅くなったら、すぐにブラウザーのタブを閉じるか、アプリを落とすか、再起動するかします。ところが、妻はこれをしない。遅いのはしょうがない、と放置するわけです。いよいよ動かなくなったら、さすがに対処はするみたいですが。
日常生活でも同じ。忙しかったり簡単にテンパったりするのはしょうがない、と放置するわけです。でも、これは妻が怠惰だからという理由ではないはずだ、というのはなんとなくわかっていました。なんとかならないのか?

なんとかならないのか?

これは今の私にとって、結構切実な問題です。
というのも、妻は毎年冬から春先にかけて体調悪化の頻度が増えるのです。いまだに理由は不明ですが、とにかくなにかが起こってから対処するのでは遅い。間違いなく遅い。コトが起こらないようにする手だてが、何かあるはずだ。それを行動経済学から学べるのではないか?

なので私は、この本を最初から「仕事術系の本」ではなく、ある意味「生活術系の本」と認識して読み始めました。

(この項続きます)